先日大阪で観た鬼一法眼三略巻、「播州書写山の段」の中で、鬼若(後の弁慶)の秘めたる利発さと、音吐朗々たる弁舌の片鱗を目撃したばかりであるが、ご縁あって程なくその弁慶が弁を振るう能 「安宅」を観る機会を得た
安宅をベースにした「勧進帳」は歌舞伎の演目の中でも最も頻繁に上演される狂言のひとつであろう
能舞台をあしらった松羽目物の最たるものだが、筆者にとっては十挺十枚にもならんとする長唄連中+囃子連中の豪華な演奏も大いなる楽しみである
この「勧進帳」のもとである「安宅」を是非観たいと思いながらも、10月の浅見真州による上演はチケットが瞬間蒸発、ヤフオクでもしつこく張っていたが、結局見逃してしまった
それをひょんなことから今回観ることを得た結果、謡本が手元にないので細かい詞章は分からないが、歌舞伎は極めて忠実に能の内容を再現しているということがよく分かった
舞台の大きな歌舞伎では判官義経の同行山伏は弁慶を入れても5人に過ぎないのに、狭い能舞台にもかかわらずその数10人ものツレが登場するのには正直驚いた
一方、関守の富樫の手下は1人、歌舞伎では4人だ
10人対1人では強力(ごうりき)に化けている義経を弁慶が打ち据えるまでもなく、富樫側はせっかく変装を見破ったにもかかわらず、一行を通さざるを得ないのは当然と言えば当然か
しかし、その後で酒を持って一行を追いかけてくるところをみると、富樫はやはり義経主従の結束に敬意を表して意図的に見逃したということか
歌舞伎では見られない演出としてのアイの役割があるが、ここでは野村萬斎のキレのある動きと割舌爽やかな大音声(だいおんじょう)が際立っていた
筆者は現在能としての具象性の強い「安宅」という出し物であれば、歌舞伎の勧進帳の方が優れた舞台芸術であると思わざるを得ない
吉右衛門の弁慶 菊五郎の富樫 里長の唄 栄津三郎の三味線 自分にとってはこれに勝る「安宅」はない
なにはともあれ、一度を見てみたかった「安宅」の舞台をみることができたことに大満足!!
(このたびの「安宅」は宝生流の某門下の方々の舞台を拝見した。その舞台にアイとして萬斎や大鼓の亀井広忠らが出演していたものである。)
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