歌舞伎の「壷坂霊験記」をようやく観た、と言っても歌舞伎座さよなら公演のDVDだが。
さよなら公演も終盤に近づいた2010年2月公演の夜の部だ。
坂東三津五郎の澤一と中村福助のお里だ。
三津五郎の前半のお里の不義を疑い拗ねたような澤一から、死を決意して壷阪寺に向かう途中のわざとらしく明るい表情、そして、目が開いてからは、ウキウキ飛び跳ねんばかりの様子を見事に演じ分けている。特に最後の杖を巧みにあやつりながら軽妙に踊る姿は大山阿夫利神社での「山帰り」の舞踊を彷彿とさせるものであった。
福助のお里も有名な「三つ違いの兄さんと・・・」で始まるクドキもさることながら、壷阪の観音様に願をかけ希望を胸に明るく振舞うお里、不義を疑われて切ない女心、そして澤一が谷に身を投げたことを知って嘆き苦しむ姿など、くるくると変わるお里の心理を見事に演じ分けるところが見所。
五月の連休に奈良の壷阪寺を訪ねたが、境内から辺りを見回すと確かに「ここから落ちると助からないだろうな」と思わせるだけの険しい谷もあった。

お里の不義を疑った自分を恥じ、彼女の幸せを願って飛び降りた澤一。後に残された身を儚んで後を追ったお里の気持ちに思いを馳せると、壷阪寺の境内もまた違ったものに見えてくる。
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