立見で三時間の観劇だったが、あまりの面白さにあっという間に大詰めまで行ってしまった
1994年「東海道四谷怪談」の初回から今年で17年目にして12公演目のコクーン歌舞伎だが、小生はそもそも歌舞伎を観始めたのが最近だから、もちろん今回が初めて
もっと言うなら東急文化村のコクーン劇場に足を踏み入れるのすら初めてだ
今年の出し物は98年以来13年ぶりの「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」

歌舞伎初心者の小生にとって、タイトル(外題)をみてもなんと読めばいいのか分からないし、そもそも、コクーン歌舞伎って何?っていうのが正直な第一印象だった
ただなんとなく中村勘三郎につらなる若手の役者さんたちが、歌舞伎座や国立などではなかなかできないお芝居をやる
あるいは伝統的な歌舞伎の舞台芸を今日的な演出によって、下世話な言い方かかもしれないが、若い世代でも楽しめるちょっとお手軽なエンターテインメント、ぐらいに思っていた
しかし、そんなイメージは客席が暗くなって舞台前面に降りたままのシルクのような幕越しに、靄の中を一艘の手漕ぎ舟が現れた瞬間から木っ端微塵に打ち砕かれた・・・
舟に乗っている尾上菊之助演じる深川芸者の小万(こまん)と三五郎(中村勘太郎)の二人
この小万の美しいことこの上なく、 そしてあの菊之助独特の声
立見と言っても、20メートルぐらいの距離から見下ろす前で、二人がしどけない態を見せるのだから堪らない
中村橋之助の源五兵衛も時代劇の主人公はかくあるべしというようないい男
しかも、始めはとても如才なく、とてもいい人然とした浪人として登場するが、これが小万や三五郎の悪どい諜略に気づくところから、怒りと怨念を眼にたたえた姿に変わっていくところが凄まじい
二役演じる坂東彌十郎の武士姿と町人姿、どちらも歌舞伎の型を体現する渋い演技でこれまた素晴らしかった
四世鶴屋南北によるお話の筋は実によく出来ていて、人間関係が入り組んでいて最後の結末も面白いのだが、ちょっと複雑なので
こちらをみていただきたいコクーンの舞台と客席は↓のような感じ

舞台に降りているのは幕なのだが、これが半透明で舞台の中の照明によってはそれを通じて芝居が見える仕掛け
客席は舞台前面のひとブロックが桟敷席で座布団に座って観ることになる
そしてその左右が「花道」になっていて役者の出や入がある
場面によってはその通路で役者が倒れたり、座りこんだりすることで、観客と役者たちの一体感が高まる仕組みだ
考えてみればこういう造りこそが昔の芝居小屋の在り様であったことだろう
そう思うとこの劇場ぐらいの広さが、本来の歌舞伎の舞台として最適なのかもしれない
大詰の場が始まる前にさっきの桟敷席のお客にビニールシートが配られた
同じ立見のブースで仲良くなった初老のおばさんが「この前きたときは血しぶきがかかるからと言って、カッパを渡された」と不気味なことを教えてくれた まさかブルーマンのレッド版か?
いよいよ切りに近づいたころ源五兵衛が自分の罪に気づいくシーンでなんと舞台の前面、ちょうと幕がある辺りの天井から、今度はシルクならぬ、雨の幕が落ちてきた
そう、舞台にザーと本物の水がカーテンのように落ちてくるのだ
落ちた水は舞台に当たり、その水飛沫が舞台近くの観客に降りかかる 度肝を抜く演出だ
舞台に落ちた水は、よくは見えないがあまり溜まることなくどこかえ吸い込まれているようだが、はっきりとは分からない
とにかく、かなり間この雨が降り続く その雨のカーテンを潜って番傘をさした源五兵衛が客席に歩いてくる・・・
最後はシルクのスクリーン向こうで、源五兵衛の来し方が走馬灯のように時間を遡って繰り広げられる
とまあ、こんな具合にぐぐっと物語に引き込まれての3時間 終わってみて初めて両方の脚がパンパンなのに気がついた