ひょんな偶然から文楽の人気演目「芦屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」の舞台のひとつである「信田の森(しのだのもり)」を訪ねる機会を得た

平安時代、宮中での政争に巻き込まれた安部保名(あべのやすな)は信田の森で悪人に追われた狐を助けた
その狐が、非業の死をとげた保名の許婚に瓜二つの妹、「葛の葉姫」に化けて保名の窮地を救う
そして落ち延びた二人の間には可愛い男の子が生まれる
しかしその子が五歳になったころ、ついに狐の正体が本当の葛の葉姫とその両親によって明らかにされてしまう
わが出自を呪いながらも、狐は子供と保名を残して生まれ故郷の信田の森へと一人帰って行く
後には障子に「恋しくば 訪ねきてみよ 和泉なる 信田の森の うらみ葛の葉」という一首が残されていた
人と人以外のものが夫婦となる「異種婚姻譚」の代表作だが、美しい葛の葉姫とあどけない子供の別れの場面と狐がひとり蘭菊が咲く野原を信田の森にとぼとぼと帰っていく「蘭菊の乱れ」のシーンには思わず涙がこみ上げる

そしてこの安部保名と葛の葉狐の間に生まれた男の子こそが、あのスーパー陰陽師 安部清明 なのである
彼は様々な妖術を使い人々を驚かせたというが、人間とキツネの子ならそれも尤もなこととつい納得、とは行かないか・・・
ところで映画「陰陽師」で安部清明を演じたのは狂言界の若手スター、野村万斎だった
(ここから、能・狂言の話題に飛びたいところだが、それはまた後日のお楽しみ)
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さて、このゴールデンウィークに愛車「プリウス」を駆って奈良・和歌山を訪れた
いつものことながら事前の計画もなしに、突然思い立って日曜日の午後に出発したのはいいが、どうしても3日の夜だけが奈良にも和歌山にもホテルがとれない
困って「じゃらん」を調べていると、奈良と和歌山の中間点ということで大阪府南部の「弥生の里温泉」という宿が見つかった
南紀の道成寺を訪ねた後、「弥生の里」についてみると、これがなんとスーパー銭湯に併設された宿泊施設だということが分かったが、これが随分と立派なビルで、部屋もとても綺麗
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こちらをクリックそして、ナビを頼りに「弥生の里」を探していると最寄駅は「信太山駅」、着いてみるとそこは「大阪府”和泉”市」だったが、でもそれでもまだ鈍い小生はピンと来なかった
ところが部屋に入ると和泉市役所が作っている「和泉市の歴史散歩マップ」が置いてある
「和泉市のスーパー銭湯で歴史って言われてもねぇ・・」と正直馬鹿にしながら開いてみると・・、なんと宿からすぐのところに「葛の葉姫伝説」縁の葛の葉神社がある、と書いてある
おまけに少し車で行ったところには「信田の森の鏡池」まであるではないか!!
温泉にゆっくり浸かった翌日、早出してまずは「葛葉稲荷神社」に・・・

とまあ、見てのとおり随分と立派なお社と境内である。 そして・・・

さらにこんなに分かり易いものまで・・・

和泉市産業観光振興会に心から敬意と謝意を表したい
そして次に訪ねたのは、冒頭の写真にある信太の森の面影を今にとどめる「鏡池」だ

ここにも葛の葉伝説に関する丁寧な説明がある
写真では分からないが、今やこの辺りは一面団地が立ち並ぶ住宅地に変わってしまっている
それでもなお、この鏡池とその後ろに広がる鬱蒼とした森は往時の信太の森を髣髴とさせ、葛の葉に化けた白狐の姿が偲ばれる